これからの時代、わたしたちが活躍するために必要なこと

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横浜市長

林文子氏
東京都生まれ。
1965年東京都立青山高等学校卒業。1977年ホンダオート横浜株式会社入社後、1987年BMW株式会社東京事業部(現BMW東京)入社、両社にて伝 説に残るトップセールスを記録。1999年ファーレン東京株式会社(現フォルクスワーゲン東京)代表取締役社長、2003年BMW東京株式会社 代表取締 役社長、2005年株式会社ダイエー 代表取締役会長兼CEO、2008年5月日産自動車株式会社 執行役員、2008年6月東京日産自動車販売株式会社 代表取締役社長を経て2009年8月横浜市長就任。現在に至る。 代表著書に「失礼ながら、その売り方ではモノは売れません」(亜紀書房)、「会いたい人に会いに行きなさい~あなたの人生が変わる『出会い』の活かし方」(講談社)など。

女性営業の世界を常に開拓してきた林市長。林市長が営業ウーマン時代、心に残っている経験を教えていただけますか?

心に残っているのは、初めて車を買っていただいた時のことです。

私が、企業でいわゆるお茶くみなど、アシスタントのような仕事をしていたころの話ですが、男性と同じように働きたいとの思いがあり、当時にしては珍しく、 何度も転職を繰り返していました。ある日、我が家に車を売りに来たセールスの方が、あまりしゃべらず、大変おとなしい方だったので「人も車も大好きな私で もできるかも」と感じました。
すると、たまたま販売員募集のチラシが新聞に折り込まれていて、男女関係なく働ける車のセールスの世界に入ってみたいと思いました。
女性を受け入れた前例がないと、夜も土日も働く世界なので女性には無理だと断られましたが、諦めずに自分を売り込みました。そうするうちに、「男性でもこんなに熱心な人はいない、とにかく来て見なさい」となったのです。

お客様に寄り添い、喜んでいただきたい、という思いで、1日100軒のお宅を訪問し続けました。営業は門前払いが多かったのですが、それでもひたむきに訪 問していると、あるお宅で、初めて迎え入れてもらいました。その迎え入れてくださった奥様は、「あなた、車の営業をなさっているの、頑張っているわね。 カッコいいわ。」と褒めていただきました。
それからも毎日1日100軒訪問する中に、そのお宅にもよく伺うようになりました。ところがある日、奥様は、風邪をひいて外にも出られない状態でした。そこで、買い物にも行けないと思い、牛乳を買ってお訪ねしました。
その後、その奥様のご主人の部下の方が車を買うことを奥様は聞いたらしく、私に部下の方を紹介していただき、その方に初めて車を購入していただいたのです。

目の前の方がご購入されなくとも、その方の後ろには多くの方がいらっしゃいます。目の前の方に一生懸命、誠意を尽くせば誰かを紹介してくださったり、新し いチャンスへと繋がります。上手に話す必要なんてありません。一生懸命、かつ情熱をもってお話しすることが大切です。どうしても営業であれば数字というプ レッシャーが付きまとう立場ですが、「売りたい」気持ちが先行すると、お客様は拒否反応が必ず出てしまうのです。それよりも、「この人のために、とにかく お役に立とう」と相手に寄り添い、相手にはない情報提供を続けることです。

相手に喜んでいただきたい、ここまでやるかと言われる程、一生懸命尽くし、その行為をやり抜く、という心意気が大事なのです。

さらに、リーダーになられてからも心打つエピソードはありますか?

BMWにてトップセールスになった後、支店長に就きました。管理職になるということは、自分が担当したお客様を部下に委譲していくことです。
ひとつの失敗エピソードがあります。ある歌舞伎役者の方の楽屋に伺ったとき、その方からこう叱られたことがありました。

「支店長ね、あなたの営業マンは確かに優秀ですよ。しかし、上司であるあなたも側にいてくれなきゃ困りますよ」

私はお客様のその一言で、まさに営業の真髄を突かれたようでした。
つまり、上司である自分は直接自分で売らなくても、部下の営業マンに寄り添い、そして部下の先のお客様にも寄り添い、「私はいつでもお客様の側にいますから」という姿勢が大切なのです。

確かに当時の私は怠っていました。一人ひとりの部下の先のお客様の側に自分もいなくてはいけないということを。かつての担当者であれば、電話一本でもお客 様に差し上げるべきだったのです、「お元気ですか?」と。部下の若手営業だけを訪問させ、その上司が内容を把握していないなんてありえないことです。

ここで学んだことは、自分の立場が変わっても、お客様との関係は「永遠」だということ。上司であれば部下に、そしてその先のお客様にも寄り添い、全力で尽 くしていく。そのような長いお付き合いをしていると担当していたお客様のお孫さんまで車を購入していただくこともあるものです。

市長のお話をお聴きし、
営業はかけがえのない仕事であると改めて痛感しました。

見知らぬ人に自ら声をかけて出逢う、ということは容易ではありません。しかし営業であれば、初対面の方にも自社名を名乗って、堂々と会えるという特権があります。「新しい人とのご縁を堂々とつくれる」は現代では難しい、貴重な経験です。

そのような意味では、見知らぬ人とでも即相手に寄り添えるという女性のオープンな気質は大きなメリットです。

女性の強みはどう営業に活かせるのでしょうか?
どう女性営業としての価値を上げていけばよいのでしょうか?

special-img-p2私が長年トップセールスであった経験から言えることは、「お客様は理屈だけで物を買うわけではない。」ということです。製品に差がないのであれば、”感じのいい人”から買おうと思いませんか。
きちんとした身だしなみで清潔感のある店員さんの方が好感が持てるのではないでしょうか。

特に女性の強みとして発揮したいことは、「共感力」です。
特に初対面のときに女性だと抵抗を与えず、最後まで人の話を聴くことができます。これは、女性にある包容力に起因するとも言えるでしょう。一方で男性は比較的、会話中に「次はどう出ようか」と反論を考えてしまうようです。

例えば何かモノをお客様に売る際に、いきなり「私を信じてください。これはとても良い商品です」では駄目です。前向きに検討しているお客様だからこそ、最初は反論したり、キツい顔をして警戒するものです。しかしそのような時はとにかく受け止めることです。そして、受け止めた上で、こちらの思いを優しく伝えるのです。

また、女性は感性のアンテナが強いので、全体像を把握する力に長けています。女性は仕事以外のことでも多くの役割をこなし、経験するからこそ培える視点なのです。まさに「生活感」ですね。

そして、どのようなお客様であれ、教えていただく気持ち、私のお話を聴いていただき本当に有り難うございましたという感謝の気持ち。その気持ちが、本当に相手の心に響いているかが大事です。

そのためにも、お客様のニーズや期待値などを聴きだすのが営業の基本です。しかしそれは「なんでも相手の言うままに同調する」ことではありません。
例えば、洋服屋さんの接客で避けたいことは、どのような洋服であれお客様に「なんでも似合う」と誉めてしまうこと。これはむしろマイナスです。しっかりとお客様を知り尽くし、何がよくて何が良くないか、徹底的に相手に寄り添うことです。
お客様の価値や考えは、実に表情に現れます。その微妙な表情をくみ取り、優しくご提言するのです。

営業のプロになることは、本当に難しいものです。プロになるためには、全人格を磨く必要があります。お客様からとにかく愛され、お客様からも「この人を喜ばせたい」と思われることが大事です。

これからの時代、さらに女性営業が活躍するために必要なことを教えていただけますでしょうか?特に、女性営業が20代、30代のうちに「やっておくべきこと」はありますか?

謙虚であることです。まるで牙を剥くように、無理をして人の上に立とうなんて、考えなくていいのです。もちろん時代の変化によって価値観も変わってきていますが、日本古来から踏襲されてきた男性や女性の価値感を尊重することが必要です。
男性と女性には性差が存在するので、いかに女性は男性の気持ちを理解し、自分自身を高めていくことができるのか。そのような関係が麗しいものです。

また、もう一つ大事なことがあります。上司と部下の関係は大事に温めてください。たとえば夫婦や家族は絶対的な味方でありますが、職場の人間関係は互いに切磋琢磨して築き上げるものなのです。

人は人によってしか育てられません。意味があって人に出会い、自分の人生が拓かれるのです。
だからこそ、ほんの一瞬でも目の前の方を気にかけましょう。寄り添いましょう。一人ひとりとの出逢いをもっと楽しめば、人生は好転します。

最後に、市長からメッセージをお願いします。

横浜市では「中期4か年計画」に初めて「女性による市民力アップ」として女性の社会進出に向けた取り組みを明確に位置づけました。私は今まで、意欲や能力があるにも関わらず悔しそうに仕事を諦めてしまう女性を多く見てきました。その度に、何ともやるせない気持ちを抱いておりました。そこで何としてでも「待機児童ゼロ」の実現など子育て支援を始め、働く女性のネットワークづくりなど女性のさらなる活躍を応援していくのが私の使命だと強く感じています。

たとえば、昨年6月には、スタートアップオフィス「F-SUSよこはま」をオープンし、女性起業家の悩みである執務スペースの確保や起業に関する相談などを支援しています。また、「女性起業家支援資金」を新たに創設しました。現在は、それらを活用して、インテリアコーディネートの会社とシステム開発の個人事業など6名の方が起業できました。
このことは、非常に嬉しいですし、これから起業される女性の活力になります。

これからの時代、女性の社会進出が今よりもさらに求められます。女性の強みを発揮して女性の活躍が促進されれば、日本経済の活性に直結することは間違いありません。
だから、女性営業のあなたも、まずは一歩を踏み出してほしいのです。
たくさんの新しい経験に挑戦し、あなたの夢を叶えてほしいのです。
男女ともに活躍する社会を目指して。

横浜市ホームページ
http://www.city.yokohama.lg.jp/front/welcome.html

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